990305-5 やはぎ論壇「外国人児童は困っている-日本語指導員の視点から-」(伊藤浄江)

 冬の斜めの日差しを受けながら、スペイン語のお喋りを聞く。国の親戚のことや、飼っていた動物のこと、エンドレステープのように続く話に相づちを打ちながら、勉強を始めるきっかけを見計らう。彼女はペルーから来た五年生の女の子。昨年一二月小学校に編入して来た。
 

 現在豊田市には、ブラジル、ペルーを中心にした中南米出身の外国人児童・生徒が約三七〇人いる。文部省の施策で外国人児童・生徒が一〇以上在籍している学校には加配といって、専任の教師が配属される。その他にも豊田市では独自に彼らの母語が話せる日本語巡回指導員を週に一、二回派遣している。私もその内の一人である。彼女は「困っていることはないよ」と言いつつ「とても疲れる」と口にする。彼女にとって未知の言語である日本語の洪水に浸かり、言葉の取得と同時に日本の学校文化に適応しなければならない。これ以上ストレスを与えたくないと思うと、勉強を始めることがためらわれる。担任の先生も個別指導の時間が取れないことを悩んでおられる。こんな時、学校編入前に短期集中日本語講習を受けていたらと思う。
 

 これは「リーバイ ストラウス コミュニティー活動助成基金」の助成を受けた豊田国際交流協会のボランティアグループの活動である。日本の学校に在籍していない一〇代の子供達を対象に、一日二時間、六週間の日本語講習を行うものだ。
 

 昨年第一回目、第二回目を豊田市国際交流協会で実施した。現在第三回目を豊田市保見団地内の公団住宅集会所で実施中である。通訳ボランティアと日本語指導ボランティアがティームティーチング(集団学習)で日本語の講習を行う。一〇名の日系ブラジル人、ペルー人の子供達が学んでいる。日本語ボランティアも子供達から彼らの母語や文化を学ぶ。狭い部屋に子供達の母語と、覚えたての日本語が響く。
 

 ここでは日本語や日本のルールを一方的に伝えるのではなく、お互い教え合う関係を築くことで、子供達が自らのアイデンティティを大切に育てながら、相対的な言葉として日本語を習得することを目指している。
 

 この短期集中日本語講習が、少しでも日本に来た子供達の助けとなることを望んでいるが、ボランティア活動ゆえに、学校編入前のすべての子供達に対応することは無理だ。編入後の子供を誘えないことも残念だ。
 

 学校編入以前に簡単な会話が出来たり、ひらがな、カタカナが書けたり、学校の様子を少しでも知っておいたりすることは本人や周りの負担軽減につながる。また、彼らが必要としている支援は日本語指導だけではない。巡回指導員として依頼は受けていないが、日本語指導の他に保護者面談や家庭訪問の通訳も行う。病院へ付き添うこともある。他の多くの巡回指導員も同様だと思う。必要な支援を周りの多くの人の行為に頼ることには限界がある。
 

 ブラジルやペルーは多民族国家である。学校も飛び級、落第があり、日本とは制度が違う。そんな多様性のある国から来た彼らを日本の学校で受け入れることは、日本の子供にとって得るものは大きい。違いを乗り越えて共生を学び、異質性を楽しむことを実践出来る。視野を広げ新たな価値観を与えてくれるだろう。
 

 外国籍の子供達が学ぶクラスでは、毎日が国際教育の学びの場である。彼らを均一な日本の学校制度の中だけで支えようとする事には、色々な面で無理を感じる。外国籍の子供達の中でも、帰国を前提にしている子や日本の高校に行きたいと思っている子などがいて、将来の見通しも様々だ。
 

 彼らそれぞれの状況に応じ、本当に必要なことは何なのか知らなければならない。学校であれボランティアであれ、子供達が必要としている支援を行うには、それぞれの領域にとらわれない柔軟な対応が求められる。今後も日本が外国人を労働者としてあてにするならば、彼らの子供達が安心して暮らしていくための新たな社会制度が必要であろう。


 豊田市国際交流協会・日本語教育ボランティアグループ「alpha」で活動。
 岡崎市伊賀町在住。


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